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相生橋を渡る路面電車

小説「相生橋にて」

相生橋や中島町を探索

此処から先は「ネタバレ注意」の内容を含みます

 拙書「八月三日(46P〜)」に、ミキとヒデキが相生橋から中島地区を歩く場面がある。中島地区は現在、平和公園の敷地になっているのだが、被爆前は家屋がびっしり建ち並び、其処には人々の生活があった。実際に相生橋から中島地区を探索し、往時の雰囲気を感じてみることとしたい。

相生橋から見た平和公園

↑此の光景では、昔から公園があったような誤解も受けるかも知れない・・・

 平和公園のある風景もすっかり其れが当たり前になってしまい、昔からあったと思う人も出て来るかも知れない。昭和60年に進んでしまった「サキ子」が「なしてここが全部公園になったんじゃろうか」と不思議そうに聞く場面で「昔はそうじゃ無かった!」ことを強調したつもりだ。

相生橋

 相生橋は、橋の真ん中でT字の交差点になっていることを前項で述べたが、御覧の通り東西を繋ぐ橋の真ん中から中島地区へ連絡する橋が南へ伸びている。

相生橋を渡る路面電車

↑T字路の交差部分〜此処が正に相生橋の真ん中だ

 広島電鉄の路面電車が行き交う相生橋の「真ん中」〜此の場所こそ、物語の決定的シーンとなるだけに、じっくりと光景なりを観察し、思いを馳せてみた。ミキはヒデキに「昭和20年8月6日の大空襲」の惨事を話した後、二人は相生橋の真ん中から連絡橋を渡って中島地区を南に向かって歩いて行く。当時の中島地区界隈は、旅館や商店等が建ち並ぶ、現代で云えば中心市街地的な存在だった。もちろん、高層建築物がほとんど無い時代であるが。



↑中島地区から相生橋方面を眺めるとこんな感じ

中島地区の光景を想像して

広島市中島地区

↑被爆直後の様子を伝える写真

 平和公園の敷地内に、中島地区の惨状を伝える写真が展示されていた。説明にある通り、中島地区界隈は市内有数の繁華街であった。様々な写真を本などで拝見したが、城下町の風情と大正レトロモダンな風情が混在した、大変魅力的な景観だったことが分かった。川沿いに無数に浮かぶ舟が「東洋のベネツィア」を彷彿とさせるのだ。



↑先ほどの写真と似た角度で撮影してみたが・・・

 元安川を挟んで向こうに見える原爆ドーム〜最近、たまたま読んだ本であるが、大正時代に夜間ライトアップされている産業奨励館の写真を見たことがある。現代と大して変わらない、本格的なライトアップである。是には心底驚いた。
 拙書では、産業奨励館の前を流れる元安川の雁木で、子供らが楽しそうに水遊びをしていた、と書いたが、雁木だけでなく川全体が遊び場だったようだ。往時の写真を拝見すると、大勢の子供達が川で泳いだりして遊んでいる。魚や蟹を捕まえたり出来たのだろう。戦後、其のような光景はもう見られなくなった。川底に瓦礫や人骨が散乱し、遊べる状態では無くなってしまったのだ。

雁木

 原爆ドーム側から見た中島地区。階段状の雁木が特徴で、恐らく戦後に整備されたものであろうが、雁木は広島市内の河川によく見られる光景でもある。ちなみに「雁木」とは、干満差が大きい沿岸の港で船が着きやすいよう、岸を階段状にした構造物である。広島湾の干満差は4mに達するので、河川も其の影響を受けて水面が激しく上下する。雁木は市内に大小数百カ所あるそうで、其れらを調べるだけで一冊の本が出来そうである。

往時の風景を残す唯一の建物

大正屋呉服店

↑広島市平和記念公園レストハウス

 ミキとヒデキは「大きな通り」に出た後、さらに南に歩いて行くのだが、此の「大きな通り」とは、当時商店街だった道路。往時の光景が残されているのは「広島市平和記念公園レストハウス(旧大正屋呉服店)」のみである。いろいろ調べると、スズラン灯と云われる街灯が等間隔で設置されている賑やかな商店街だったようだ。往時の雰囲気を連想させるものについて、拙者は幾つか思い浮かべた。スズラン灯の商店街と云えば、鹿児島市の「黎明館」にある「昔の天文館のジオラマ」が思い当たった。あんな雰囲気なのだなぁと。ちなみに、ドーム屋根の洋館と日本家屋の混ざり具合が被爆前の産業奨励館界隈によく似た雰囲気だと感じたのが、「りそな銀行川越支店」がある埼玉県川越市の街並み〜もちろん拙者の勝手な連想です。

スズラン灯 りそな銀行川越支店

↑スズラン灯が灯る商店街(鹿児島市天文館)〜緑のドーム屋根が産業奨励館を連想(川越市)↑

 拙書「八月三日(46P〜)」では、被爆前の廣島と戦後の広島を比較させて、登場人物が景色の違いに困惑する様子を描いてみた。「当時と今」の対比は、あの運命の瞬間まで続く訳だが、昭和60年と云う時代が結構な昔になってしまい、「当時と今」の違いを二重に考えなければならなかったのが実情。年月の経過を改めて思い知ることになりました。
 続いて、拙書の様々な場面を作るヒントになった話を幾つか取り上げたいと思います。

→次ページ:小説「相生橋にて」〜あんな話、こんな話

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小説「相生橋にて」

小説「相生橋にて」

相生橋や中島町を探索して

あんな話、こんな話

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