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バイエルン王国

バイエルン分列行進曲

豪華絢爛!優雅な王国マーチ!

 ♪パンパカパーン、パンパカパーン、パン、パン、パン、パン、パンパカパーン・・・
 本当に♪パンパカパーン〜そのまんまの旋律で始まる、豪華絢爛な行進曲である。軍隊行進曲と云うより、宮殿内で行われる戴冠式の様子が目に浮かぶような曲である。此の曲を書いたのは、アドルフ・ペーター・シェルツァー(1815-1864)。CDの解説書によると、バイエルン歩兵10連隊の軍楽長をしていた1850年頃に作曲された。

 バイエルン州〜ドイツ南西部に位置する広大な地域であり、首都ミュンヘンは昔から交易が盛んで食べ物もおいしく、しかも「ベルリンがなんぼのもんや!」と対抗意識むき出し、そしてファッションはド派手。日本で言えば大阪府みたいな存在とでも云えようか。
 サンドラ・ヘフェリン著「ドイツ節約生活の楽しみ」によると、ドイツ東北部に人に「ミュンヘンから来ました」と言うと、露骨に嫌な顔をされたそうな。拙者は大阪生まれだが、ある親戚が東北出身者に「大阪から来ました」と自己紹介したら、臆する人がいたと云うから、関西と東北地方の人間はソリが合わないのは世の東西を問わずだなぁと苦笑いがこみ上げる。バイエルンとプロイセンは、昔は全く別の国家だっただけに、ソリが合う合わない以前の問題だったことは確かである。日本の明治維新との大きな違いは、ドイツの場合は東北政権が天下統一したところだが。

不幸の続くバイエルン王国

 此の行進曲の豪華絢爛、前途洋洋な雰囲気とは裏腹に、1850年以降のバイエルンは、王国としては明らかに凋落の一途を辿っていた。ビスマルク率いるプロイセンの勢力伸長に対し、バイエルンはオーストリア側に立って戦うが、プロイセン軍に圧倒される体たらく。まぁね、ピーフケの行進曲を聴いただけで、気合の違いが分かる。ピーフケの行進曲は、戦争の匂いがプンプンと漂うのだ。それとは対照的に、バイエルン分列行進曲の優雅な旋律からは、戦争のイメージが全く湧いてこない。
 バイエルン王室も、目を覆うばかりの不幸続きだった。精神に異常をきたしたルートヴィヒ2世が謎の死を遂げたいきさつは、ルキノ・ヴィスコンティ監督の映画「ルートヴィヒ」に詳しい。もちろん、映画の中で此の行進曲が登場する。ルートヴィヒ2世の戴冠式の場面で、当該行進曲だけでなく「十字軍騎士団ファンファーレ」「カール王」も挿入されていると云う豪華さだ。ちなみに、後の2曲も「海上自衛隊演奏のCD」に収められている。
 さて、ルートヴィヒ2世が亡くなった後、王の座についたオットー1世もまた、どうしようもない人物だった。彼の日課は、朝起きて農民を銃で撃つことだった(!)。


↑映画「ルートヴィヒ」

 王国の凋落にもかかわらず、此の行進曲だけは何故か「前途洋洋」 だった。CDの解説書によると、1891年に行われたドイツ軍バイエルン特別大演習において、当該行進曲が「大会のテーマソング」として演奏されたことから、此の曲がたちまち評判となり、全ドイツ中で愛好されるようになったと云う。
 この演習時の模様を描いた絵を見たことがある。プロイセンとバイエルンの将軍達を率いて颯爽と現れたのは、プロイセン王兼ドイツ皇帝であるヴィルヘルム2世であった。バイエルンの王様が、起き掛けに農民を銃で撃って楽しんでる間に、ヴィルヘルム2世はバイエルンを含む全ドイツ軍を統括すべく着々と政務をこなしていた。格差は此処まで開いたのである。
 1891年と云えば、ヴィルヘルム2世がビスマルクをクビにした翌年である。2代目は、初代社長に仕えた重役を粛清したがるが、ドイツ帝国もまた、同じようなことをやっていた。ビスマルクを失ったドイツは列強との対立を次第に深め、最悪の世界大戦に突入することになる。

そして皇帝も去り、王国も消え、行進曲だけが残った

 1972年〜もうカイザーも王国も、何もかも消え去っていた訳だが、此の行進曲がドイツを飛び越えて世界に知られる出来事があった。それは、1972年に行われたミュンヘン・オリンピックであり、当該行進曲が大会のテーマ・ソングに採用されたのである。

 

 ミュンヘン・オリンピックに、あの「ドイツ民主共和国」が参加した。当時のドイツは、旧プロイセンを中心とした東ドイツと、バイエルンやルール地方などの西ドイツに分かれていたのである。
 東ドイツ・・・明らかにソ連の傀儡国家であったが、彼らは「赤いプロイセン」と恐れられた。その国軍は何故かプロイセン以来の伝統ある洒落た制服を着こなしていた。選手団達は、此のバイエルン分列行進曲をどう受け止めたのであろうか。音楽などと、どうでも良かったのかもしれない。彼らは東ドイツ政府の非情な指令のもと、メダルを獲るロボットのような存在だった。彼らは主催国西ドイツよりはるかに多い、20個の金メダルを獲得したのである。

 ちなみに、拙者が現在住んでいる札幌市は、ミュンヘンオリンピックの同年に冬季オリンピックを開催した。以後、ミュンヘン市と札幌市は友好都市として交流を持つようになる。上の写真は、札幌市営地下鉄(東豊線)さっぽろ駅に掲示されているミュンヘン五輪のポスターだ。
 札幌市では12月になると、「ミュンヘン・クリスマス市」が開催される。バイエルンの古き善き伝統文化が、此のようなきっかけではるか極東にもたらされることになった。あの優雅なマーチを口ずさみつつ、バイエルンの歴史と文化に思いを馳せながら、拙者は今札幌の街を歩いている。



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海上自衛隊演奏CD-index



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超番外編〜ドイツ民主共和国(東ドイツ)の行進曲を聴いてみた!



・華麗なる?東独マーチ

・Im Gleichschritt Marsch!

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