此の本は、特段に鉄道趣味の本と云う訳ではない。阪急電鉄今津線と云う、片道15分程度の各駅停車に乗り降りする人々の人間模様をリアルに描いた、短編小説集のような作品である。阪急今津線〜昔は宝塚−今津間を往復していたが、西宮北口駅の神戸線との平面交差「ダイヤモンドクロッシング」が廃止され、南北に分断されてしまった。小説の舞台となったのは、宝塚−西宮北口間。宝塚大劇場や高級住宅街、大学や競馬場・神社仏閣など、豊富な沿線資源をふんだんに盛り込みつつ、たまたま乗り合わせた乗客達が、ちょっとした偶然に出会い、そして別れ、そしてそれぞれの人生に微妙な影を落としていく、云ってみればリレー形式のようなストーリーである。
読み始めた当初、単純に各駅毎の完結されたストーリーなのかと思ったが、宝塚駅を出発した各駅停車が各駅ごとに登場人物を乗車させ、絶妙なタイミングで人と出会わせ、そして降車させて行く。片道たった15分しかかからないはずだが、小説はとても15分で読み終わらない。で、とうとう電車は西宮北口に到着、関係している人間を全部吐き出した後は、「そして折り返し」と云う標題に思わずにんまりしてしまう。折り返しと云っても、発車まで途方もない時間が掛かり、どっかで登場したような人間が再び出てくるから、さらに「にんまり」とさせられるのである。
もちろん、沿線住民の皆さんによるエキストラが駅や車内の自然の風景を演出するのだが、場面によっては一般乗客もごっちゃになってる訳で、撮影に気付いた人々が歩みを止めないように、スタッフが影で注意喚起してたんだとか。此のヘンのリアルさが「映画:阪急電車」の魅力の一つだと思う。また、宝塚歌劇団によるカメオ出演もあるらしく、是もまたリアルそのものだ。なぜって・・・普段の今津線でもジェンヌ様達は乗客として「カメオ出演」してるようなもんでしょ?
平成23年のゴールデンウィーク、札幌市に住む拙者は一年半年ぶりに大阪市へ帰省した。もちろん、阪急沿線へ出向いて撮影を開始!感激したのは、走っている電車に記念ヘッドマークが飾られているのだ!早速撮影開始である。
叔母殿と「天王寺アポロシネマ」で「映画:阪急電車〜片道15分間の奇跡」を鑑賞してきた。事前に小説を何回読み直したことか。印象に残るセリフはほぼ暗記してるくらいだ(笑)。さて、此処からは実質ネタバレになってしまうことを申し上げておく。小説を読んでいて感じたことは、婚約者を寝取られた翔子さんの話があまりにも強烈で、その後が案外どうでもいい話が多くて退屈してしまうこと。そして、拙者ごときがこんなことを云う資格は無いのかもしれないが、結末にドカンと来るようなオチがなくって「失望した」こと。映画では、宝塚ホテルへの討ち入りは大いに盛り上がるだろうが、その後の小さな話の断片をどう処理していくのかが心配だった。そして、映画化するにあたって、どの場面を省略し、どの場面を強調するのか、是も大きな関心事だったのである。
映画の名場面となったロケ地の数々をまったりと周遊して行くこととしよう。もちろん、一日乗車券が必須となるのだが、カードまで映画の印刷がされている。しかも、駅構内に「ロケ地巡りマップ」が置かれていて、映画の写真も多数掲載されいている豪華版。是は永久保存版でしょう。
まず初めに、阪急神戸線に乗って三宮を目指すこととする。婚約者を寝取られた挙句、三者会談するハメになった冒頭の名場面があるが、そのロケ地「カフェ・フロインドリーブ」から見てゆくとしよう。