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ドイツ行進曲

「キールに敬礼!」

ドイツ統一への前哨戦〜対デンマーク戦争

 キールと云えば、ドイツ海軍の根拠地と云うイメージがつきまとう。拙者は当初、「キールに敬礼!」の名前につられてドイツ海軍の行進曲だと思っていたが、是は全くの誤りだと分かった。此の「キールに敬礼!」が作曲されたのは、1864年の対デンマーク戦争の時代であり、その頃のキールの街は、そもそもドイツ領では無かったのだ。
 では、デンマークとの戦争がどのような経緯で展開されたのか、デンマークのバタークッキーを食べながらまったり語っていくこととしましょうか。

デンマークと云えば丸い缶に入ったバタークッキー(フライングタイガー)
↑デンマークと云えば丸い缶に入ったバタークッキー(フライングタイガー)

 1864年の欧州を俯瞰すると、ドイツ国内はまだ多くの王国・公国等に分裂していた時代である。統一国家を樹立できない辛さは、現代の日本人には全く理解できない辛さなのかもしれない。
 周囲は、ある程度統一性をもった国々がドイツを取り囲んでいる。フランス、オーストリア、デンマーク、ロシア等。是らの国々が、ドイツ領内大小の国々と複雑な利害関係を結ぶことで、更にドイツを支離滅裂なものにしたのである。ドイツが分裂しているのをいいことに、あらゆる干渉を許す素地にもなった。こうした事態を打開するためには、ビスマルクの鉄血政策ほどの強引さが必要だったのである。
 デンマーク戦争は、シュレースヴィヒ=ホルシュタイン公国の支配を巡る、デンマークとドイツ諸邦との主導権争いから始まった。第一回目の衝突は1848年〜此の時も、スウェーデンや英仏露の干渉によって中途半端な結末に終わってしまった。決着を見たのは、やはりビスマルクの登場からである。1864年の対デンマーク戦でビスマルクは、オーストリアも誘って攻勢に出た。もちろん、取り巻きの列強が安易に口出ししないよう根回しも忘れなかった。こうした状況下、1864年に開始された第二次デンマーク戦争では、プロイセン軍を中核としたドイツ側連合軍の前にデンマークは多勢に無勢だった。

ザクセン王国軍の奮戦

 CD付属の説明書によると、ザクセン王国歩兵102連隊付の軍楽長であったフリードリヒ・シュポーアもまた、デンマーク戦争に参加した一人。ザクセン王国の部隊は、ドイツ各国軍の先陣を切るかたちでキールに突入した。シュポーワは、自軍の奮戦に感動して行進曲を作曲した。それが此の「キールに敬礼!」であった。

 確かに、曲はとても高揚感があって心地いい。もう感無量です!と云う作曲者の思いが伝わってくる。日本の軍艦マーチによく似たイントロで始まるが、直後から非常に印象的な木管による主題が続く。金管はあくまで脇役で、終始木管がメロディーを支配している。作曲したのがキール占領直後なのだろうか。「もう戦争は終わりましたよ」と云う、祝典序曲のような雰囲気がある。ドイツ系住民の歓呼を受けて、ドイツ軍部隊が入城する様子が目に見えるようだ。
 キールを手中にしたドイツ側は、さらにデンマークに対して攻勢をかけた。デュッペル要塞攻防戦の様子は、ピーフケの「デュッペル要塞突撃行進曲」が濃密に描いている。突撃ラッパが鳴り響く勇壮さは聴いていて圧巻!実家にあった古いレコードにも収録されておりました。


↑デュッペル攻防戦のマーチが三曲も収録されていた貴重な盤だ。

そして、ビスマルクが作り上げた「帝国」は、キール軍港の反乱から終焉を迎えた

 ドイツ統一後、キールの街はドイツ海軍の有名な根拠地になっていく。そして運命の1918年、キールの街はドイツの新たな歴史を作った。それはドイツにとって新たな不幸の始まりとしか云いようがない、あまりにも皮肉な出来事だった。キール港内は、くたびれ果てたドイツ艦艇が多数ゴロ寝していた。英海軍との全面対決でそれなりに互角に戦ったものの、イギリスの制海権は覆ることが無く、ドイツ艦隊は港内に閉じ込められてしまったのだ。厭戦気分が頂点に達し、ついに水兵達が反乱を起こしたのである。それはドイツ革命となってドイツ全土を覆った。ビスマルクが苦労して作り上げた「帝国」は、たかだか半世紀ぐらいでいとも簡単に崩れ去ったのである。
 反乱の理由は諸説あるらしいが、海外植民地を失ったドイツは珈琲の供給が途絶えたらしく、代用品すら底を尽いたから「もうやってられっかー!」と自棄になったらしい。そうならそうで大いに同情する。せっかく帝国内の主婦メリタ女史がペーパードリップを発明し、世界の珈琲文化を変えたと云うのに。


 珈琲を味わえる幸せを噛み締めながら、此処で一杯いきますか。

おまけ〜狙撃兵分列行進曲

 海上自衛隊演奏CDに収録されているザクセン王国の名行進曲をあと一曲〜ドレスデン・狙撃兵108連隊付軍楽長リッペ作曲の、「狙撃兵分列行進曲」である。これもまた名曲だ。ザクセン王国は元々親仏的であったが、対ナポレオン戦争ではドイツ諸邦の側に立って戦うことになる。108連隊は全員が黒衣に着替えて参戦した、と伝えられている。リッペがこの連隊のために作曲したのは、それから何十年も後の話になるのだが、当時も由緒ある連隊として通っていたのだろう。曲はまさに威風堂々であり、煌びやかな軍旗を先頭に、将兵が隊列を組んで行進する様子が目に見えるようだ。

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海上自衛隊演奏CD-index



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